Carpathia III: Episode 8 - 見知らぬ何処か


未知の土地

ジェイズは、少しずつ、目覚めてきたものの、まだ、頭はくらくらしていた。 巧妙に仕組まれた幻想世界から抜け出してきたかのような感じがし、困惑していた。 夢の内容はほとんど憶えていなかったが、奇妙な内容だったという事は、分かっていた。 しばらくの間、自宅で自分のベッドにいるのかと思ったが、少しずつ、いくつかの事柄がその考えには適合していないのに、気づきだした。 まず、ベッドの感触が違う。 重機械のガチャガチャ音とモーター音が聞こえてくる。 その上、誰がか自分の肋骨をつっついているような気がするのは、実際にそうなのだと分かってきた。 それから、子供の声を聞き、ジェイズは、ようやく、目を開けた。

少年: ミラージュ! 目を覚ますみたいだよー!

今のところ、返事はなかった。 つっつく動作は、強くなってきていた。

ミラージュ: その男を、そのように突っつくのは、止めろ!

つっつかれなくなると、ジェイズは、目をより大きく開き、自分が鉄製の小部屋にいる事を知った。 大小のパイプが壁に沿って雑に置かれ、絶え間ない重機械の音が充満し、まるで、スチームパンクのデストピア(暗黒卿)に登場する工場か何かに、自分が居るようだった。 それに加え、その部屋はとても寒く、旧式の冷蔵室か何かの中だろうかと、思った。

ジェイズ: ここは、どこ?

ミラージュと思われる少年が、自分の上に身を乗り出した。 16才を超えているようには見えなかった。 だが、彼の16年は、波乱万丈だったように思われた。 顔には、古傷や生傷がいくつもあり、身に着けているのは、汚れと涙の跡で覆われた古ぼけた白いTシャツとカーゴパンツだった。

ミラージュ: ここは、ネクラメンティア兵士宿舎だ。 我々は砂漠で君を発見し、ここに連れて来た。

ジェイズは、苦労しながらも、考えた。 頭の中は、まだ、はっきりしてなかったが、カルパティで「ネクラメンティア」と似ている単語さえ耳にしたことがないのは、確かだった。 自分の今の居場所について知りたい気持ちは強かったが、それ以上に、友人たちのことが気がかりだったので、彼らも見つかったのかどうか、知りたかった。

ジェイズ: 僕の友人たちを、、、僕の他に誰かを、見ませんでしたか?

ジェイズは、気を確かに持った。 一番恐れていたのは、誰かが死体で発見されたかもしれないということだった。 特に、もし仮に、トーマだったりしたら、その事に直面する勇気はなかった。

ミラージュ: 我々は、君以外は、発見しなかった。 君はラッキーだった。 もし我々が見つけていなかったら、すぐに死んでいただろう。 ここには、この部屋のように、冷却室がある。 灼熱のせいで、意識がなくなる者を冷やすためにな。 よく起こるのだ。

ジェイズは、ほんの少し、安心した。 少なくとも、自分の仲間は、誰も、死体で発見されたりしていなかった。 ゆっくりと、ベッドの上に起き上がり、周りを見渡し、すぐ近くに窓があることに気づいた。 何か見覚えのある物があるかと、外を覗いた。 緑色の破壊されたサイロが、その周りを波のように打ち寄せ渦巻いている砂の上に建っているだけで、他には、ほとんど何も無かった。

ジェイズは、何を言うべきか分かっていなかったが、ミラージュの方を向いた。 一度にすべての事を受け入れるのは、容易い事ではなかった。

ジェイズ: どうも、ありがとう。

それは、考えついた唯一の言葉だった。 ジェイズの頭の残りの部分では、休息をとることと友人たちを探すことの、どちらも譲りがたい願望が、ぶつかり合っていた。

ミラージュ: ジャンプ。水を取ってきてくれ。

ジャンプ: 了解しました!

年少の少年が、すぐに、小さな食器棚の所に行き、その中をくまなく探し始めた。

ジェイズ: 彼の名前はジャンプなの? 珍しいですね。

ミラージュ: そうだ、彼はジャンプで、私はミラージュだ。

ジェイズ: 僕は、ジェイズです。

ミラージュ: まあ、そうだが、すぐに、君の名前は変更する。

ジェイズは、その最後の言葉にショックを受けたが、そのショックから立ち直った頃には、ミラージュはすでにその場から離れていた。 ジェイズが言葉の意味を問おうとミラージュに呼びかけようとした時、ジャンプが水の一杯入った大瓶を手に戻ったきた。

ジャンプ: はい、どうぞ。

ジャンプは、その瓶をジェイズの手に、すばやく押し付けたので、水が数滴、ベッドにこぼれた。 ジェイズは、瓶から水を飲んだ。 自覚していた以上に喉の渇きは酷かったようで、すぐに、すべて飲み干した。

少年: やっと、お目覚めかょ。 ミラージュ、いつまで、あいつをここで寝かしてやって、その上、資源まで消費させてやるつもりなんだ?

ジェイズが振り向くと、出入り口の所に、しかめ面で腕組みをしている少年が立っているのが見えた。 ミラージュと同じくらいの年頃だった。 耳の一つが、かなりの部分、欠落していたし、顔はミラージュよりもはるかに多くの傷で覆われていた。 もし、ネコヒューマンだとしたら、尻尾が小さすぎると、ジェイズは思った。

ミラージュ: 必要な日数の限りまでだ。 かなり暑さにやられているから、回復するのに数日は、かかるだろう。 今、追い出して、目の前で死なせるつもりはないからな!

少年: やれやれ。 お前、軟弱すぎるぞ。

ジェイズは、彼らの会話の行き先に不安を感じた。 名前を変えるという謎めいた言葉に加え、乱暴な言葉遣いの少年が部屋にやってきた。 最初、この人たちは救済者だと思っていたが、だんだんと、全くそうではないように思えてくるにしたがい、ジェイズの体はピンと張りつめた。

ミラージュは、いら立ちから目を細めると、その少年が立っている出入り口で、足を踏みにじった。 ミラージュが、顔を突き合わせるほど、少年の近くに身を乗り出すと、その少年は、微動だにせず、宇宙侵略にもだじろがないような様子だった。

ミラージュ: よく聞けよ! 私が、ここの責任者で、お前では、ない! 今度、私のやり方に口を出したら、地下牢にぶちこむぞ! 出ていけ! 冷たい空気が外に出てるだろ!

ミラージュは、出入り口で外側に少年を突いた。 少年はよろめくと、悪意の籠った視線をミラージュに向けてから、立ち去って行った。 ミラージュはドアを閉め、ジェイズの方を向いた。

ミラージュ: 彼の事は、申し訳ない。 あれは、ペスティレンスだ。 あいつは、時々、頭に血が登るんだ。

ジェイズ: そのようですね。

ジェイズは、ここでは話す相手が誰であろうとも、口には気をつけなければと、思った。 ミラージュは明らかにある種のリーダーだったが、彼の権威に挑戦しようと意気込んでいる者がいるようだった。 でも、少年にリーダーをやらせるような組織とは一体なんだろうか、それに、自分をここに置いておこうとするような意図が感じられるが、なぜだろうかと、思案した。 ジェイズは、ここに留まるつもりは無かったし、脱出を試みるまで、どれくらい待つべきかと考えた。 ポケットに、ギャラ・フォンがまだあるかと、服の上から確かめようとした。 だが、何も無かった。

ジェイズ: ねえ、僕の私物、どうかした?

ミラージュ: 個人財産は、すべて、メールストロムに送られる。 ここでは、そうゆう事になっている。

ジェイズ: メールストロム? ここを統括してる人? 彼と話をしたい。

ミラージュ: 呼ばれない限り、メールストロムとは、話せない。

ペスティレンスが部屋に入ってくるまで、ミラージュはキャビネットの所に居たが、再び、そこへ向かって行った。 そして、キャビネットから、一組の服と一対のブーツを、取り出した。 それは、ここでは皆が着ているカーゴパンツとTシャツに似ていた。

ミラージュ: 急ぎではないが、その服に、着替えてくれ。

ミラージュは、ベッドの上に服を置いた。 ジェイズは、すでに答えがわかっている質問をしようとする前に、その服に、一瞬、ちらりと目を向けた。

ジェイズ: これは何?

ミラージュ: 君の制服だ。 ここでは、常にそれを着用していなければ、ならない。

ジェイズ: 僕は、ここに滞在するつもりは、ない。 友人たちを見つけださないと。

ミラージュ: 申し訳ないが、君には選択権はない。

ジェイズは、ミラージュがどれくらい真剣なのか判断しようと彼の目を見ながら、一瞬、ためらった。 ミラージュは、ただ、ジェイズの目をじっと見返した。 突然、ジェイズはベッドから飛び出すと、掛けがねを外してドアを開け、外の廊下を走って行った。

つづく。。。

本エピソードのイラスト委託作成::
Miyumon
Iniphineas
Cubonefan3

「都市」の画像は、「SimCity 4」の画面です。

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