第1巻 エピソード3 - 過去

惑星ニュー・ベレンガリア、ルーン・レイク地区、アデルの家。

アデルは、飛び起きた。 目覚ましが、嫌味なほど早い時間に鳴ったような気がしたが、カーテンを通して注ぐ光に目を細めながら、それほど早すぎるのではないと気づいた。 何時間も睡眠を取ったが、まだ寝足りないような気がした。

よろつきながらベッドから出ると、学校へ行く準備を始めた。 朝食・済んだ、シャワー・済んだ、服は着たし、、、あっ、違った、靴下を履いてから、靴だった。 まだ、ほんと、眠いな。 よし、準備できたっ。 アデルは家を出て、徒歩で学校に向かった。

昨晩、眠りについたときも、まだ、ミタニのことを​​考えていた。 歩きながら、昨日ほどではないものの、まだボーッとした頭で、直接ミタニと話しをしてみようと、決心した。 何が問題なのかを問いつめて、この件にきっぱりと片を付けようと。


ルーン・レイク高校

学校に着くと、校舎の入口に向かって歩いているジェイズと出会った。 ジェイズは、心配そうな顔つきでアデルを見た。

ジェイズ: まだ、すごく、眠たそうだね。

アデルは、我慢できずにあくびした。

アデル: 少なくとも昨日よりは、体調いいよ。 旅疲れもあるけど、時差ぼけがひどくてさ。 一日が25時間っていうのにも、慣れてないし。 昨日は、家に帰ってから、すぐに眠りこけたけど、その後、目が覚めてしまって6時間も起きてて、それから、目覚ましが鳴るまで、また、1時間、寝たんだ。

ジェイズ: ミタニのこと、ずーっと何時間も、考えてたの?

アデル: ああ。

ジェイズは、意味深なスマイルを浮かべた。

ジェイズ: やっぱりーっ! ぜったい、そうじゃないかって、思ってたよ!!

アデル: え、えっ? 違うって。 意味、誤解してるって。

ジェイズ: 僕、教員室に用があるから、後で、クラスで会おうね!

ジェイズは、図星ついた勝利者顔で早足に去り、一方、アデルは、間抜け顔でその場に立っていた。 ブツブツ言いながら、アデルは教室に向かった。

アデルは、教室に入ると、すぐに辺りを見回し始めた。 鮮やかな赤毛とひどいファッションセンスから、ミタニ発見は簡単だと分かっていた。 教室全体を隅々まで見渡したが、そこには、ミタニの姿は、なかった。

アデルは、教室の後ろの方から近づいてくるカオルの声を、耳にした。

カオル: すぐに戻るけど、クラスが始まる前に、ちょっと水を取りに行ってくるよ。

カオルが、きびきびとした足取りで、廊下に出ていこうとしたのを、アデルが呼び止めた。

アデル: カオル、ちょっと待って!

カオルは、ちょうど出入口の所で立ち止まって、振り返った。

アデル: 今日、ミタニを見かけた?

カオル: ああ、見たよ。 あいつ、ちょっと前に、教室を出てった。 すぐに戻ってくるだろ。

アデルは、しかめ面で床を見下ろした。

アデル: そっかー。

カオル: あいつの事、好きなのか?! だから、昨日の昼飯の時、あんなに色々と聞いてきたんだろ!

アデル: なんだって? いや、違うって! ちょっとさ、、、

アデルは、カオルの背後にミタニがやってくるのが目に入り、口をつぐんだ。 カオルは、ミタニに気づいていないようだった。

カオル: ミタニは、確かに、いい体してるけどさ、だけど、、、

と、その時、ミタニはカオルの耳をつかんで、自分の口元に近づけた。 ミタニは小声で話したが、アデルにも十分、聞こえた。

ミタニ: 何の話、してたんだ、カオル?

ミタニはカオルの耳に、艶かしく息を吹いた。 カオルの顔は、赤くなりだした。

ミタニ: 俺の「いい体」の話か?

ミタニがカオルの耳を放すと、カオルはすぐに廊下側に飛び出した。 ミタニはカオルをバカにしたように冷笑すると、教室に入ってきた。

ミタニ: バカな奴! 口に出す前に考えろ。

そして、ミタニは、一瞬、凍りついた。 ミタニとアデルは、突如その場で、鉢合わせの情況となって、互いの視線が相手に固定されてしまった。 昨日とは違って、アデルを見るミタニの緑色の目に、憎しみはなかった。 ミタニは、自分が思いがけず赤面しているのを、感じた。

何も言わず向きを変え、出来るだけさりげない様子で、ミタニは、教室から出て行った。

アデル: 待ってくれ。

アデルは、廊下に出てミタニを追おうとしたが、そこへ、先生がやって来た。

マクファーデン先生: さあ、みんな席に着いてくれ、始めるよ。

アデルは、ミタニが戻って来そうになかったので、彼と話しするのは、とりあえず諦めた。 着席し、ホームルームが始まるのを待った。

暫くした後で。

ランチタイム前のクラスが終了しても、アデルは、まだ、ミタニ​​と話ができていなかった。 2人は同じクラスを取っていたのだが、ミタニは遅れて到着し、終わるとすぐに立ち去った。 アデルを避けているのは明白だった。 アデルが、ミタニが居そうな場所はどこかなと、考えている所へ、ジェイズがやって来た。

ジェイズ: ねえ。 今日もまた、カオルと、お寿司を食べに行くけど、一緒に来る?

アデル: ありがと、でも、やめとくよ。 ミタニを見つけて、ケリをつけたいんだ。 あいつ、昼飯、どこで食べるのかな?

ジェイズはうつむきながら、考えた。

ジェイズ: うーん、心当たりないな〜。 でも、お天気の日は、ほとんどの生徒は、学校の裏にやって来る屋台やフードトラックに、ランチを買いに行くよ。 アデルも、一度、行ってみなよ。

アデル: そのうち、試しに行ってみるよ。 ありがと。

ジェイズ: もし、ミタニを見かけたら、教えるよ。 グッド・ラック!!

ジェイズは、去り際に、笑顔でアデルの肩を軽くたたいた。 アデルは、バックパックをつかみ、教室を出た。 赤毛の頭を探しながら、ゆっくりとロビーに向かった。 廊下は、各々のランチ計画遂行の為に行き交う生徒たちで、ごったがえしていた。 単独行動の者もいれば、グループで昼食に行く者もいた。 幸い、この学校には、元々、赤毛は数が少ないようで、ミタニと似た髪型の赤毛となると、ほとんど皆無だった。

アデルは廊下をぶらつきながら、あるドアの前を通りかかった。 何の特徴もない、ネームプレートさえ付けられていないスライドドア(引き戸)だったが、他のとは少し違って見えた。 教室のドアはすべて同じで、同じ大きさの窓がついていたが、このドアには、それよりもずっと小さな窓がついていた。 アデルが、その前を通り過ぎようとした時、ドアがスライドして開いた。 アデルは、誰か出て来る人の邪魔にならないようにと後ろに下がったが、そこで目にしたのは、ミタニだった。

ミタニ: 俺を探してたのか?

アデル: ああ、そうだよ。

アデルは、込み入った話をするのに適した場所がないかと、周りを見回した。 この学校の事は、まだよく知らなかったので、どこへ行くべきだろうかと思案した。 先ほどまでの群衆は、すでに、各々のランチ計画の目的地に向かい、人の数は急激に減ってきていたので、廊下で立ち話するのでもいいかなと、アデルは考えていた。

ミタニ: まあ、中に入れよ。

アデルは、目の前にあるにもかかわらず、プライベートな会話に最適なその場所を見落としていた。 そこは、今は使われていない物置部屋だった。 その小さな部屋の中には、壁に沿って棚と箱がいくつも並んでいた。 アデルが入ると、ミタニはドアを閉め、鍵を掛けた。

ミタニ: さてと、これで、話しの邪魔は入らないぜ。

アデルはミタニがドアをロックしたので、あまり心地よくなかった。 でも、もしも必要となった場合は、ミタニを力ずくで退かし、自分で鍵を開ける自信はあった。

アデル: せっかくこの部屋に僕を入れたんだから、何が問題なのか教えてくれよな。

ミタニは、アデルに少し近づいた。

ミタニ: 前の時は、俺に気付きもしなかったけど、今は、少なくとも、俺の事を気にはしてくれてるようだな。

アデル: いつ頃の事、言ってるんだ? 同じ小学校だったとか、どこかで会ったとか?

アデルは、視線を合わせるのがつらくなり、床に目を落とした。 ミタニは、近寄ってアデルの首の後ろを掴んだ。

ミタニ: なるほど。 本当に覚えてないんだ。

アデル: すまない。 覚えてない。

アデルに、それ以上考える暇はなかった。 ミタニが、アデルの首を引き寄せ、体を近づけた。 そして、アデルの唇を艶かしく舐めてから、キスをし始めた。

ほんのしばらくの間、アデルは、惑いながらも一時の快楽に身を任せた。 しかし、股間に伸びて来た手の感触が、突然、彼を現実の世界に戻した。 そして、ミタニを押し放った。

アデル: 僕を、からかってるのか? 今までの事は、僕のパンツに手を突っ込む為の猿芝居だったのか?

ミタニは、目を細めて床を見ていた。 ほんのつかの間、アデルは、ミタニが泣きだすのかと思った。 しかし、ミタニは、泣く代わりに、振り返ってアデルを見た。 昨日と同じ、あの憎しみのこもった目で。

ミタニ: あぁ。 ちょっと、からかっただけかもな。 半分、正解。

ミタニはポケットからペンを取り出し、埃っぽい机から紙切れをつかんだ。 アデルには、ミタニが走り書きしている内容は見えなかった。 ミタニは書き終えると、ポケットにペンを戻し、紙を折り畳んだ。 すると、ミタニは、不意打ちをつくように、いきなりアデルのズボンのウエスト部分を引っ張り、その紙を、中にねじ込んだ。

ミタニ: ほら。 頭の中のゴミ整理が済んだら、教えろよ。

ミタニはドンドンと大きな足音をたてて歩いて行き、鍵を開けた。 そして、ドアを思いっきり荒々しくスライドさせると、ドアは、敷居の上を勢い良く走って行って、それから戸枠に激しくぶつかると、バシンと大きな音をたてて跳ね戻った。 ミタニは、アデルを困惑させたまま、振り返ることなく出て行った。


つづく。。。


本エピソードのイラスト委託作成:
Miyumon
Atomic Clover
Kurama-chan
Catnappe143

「都市」の画像は、「SimCity 4」の画面です。


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