第1巻 エピソード4 - 白雪姫

惑星ニュー・ベレンガリア、ルーン・レイク地区、アデルの家

アデルは、自分の部屋で、箱やスーツケースに囲まれて座っていた。 まだ旅行の荷物の整理をしていなくて、すぐ横には、まるで爆発したカップラーメンのように、スーツケースから服が溢れ出て散らばっていた。 また、彼の周りには子供時代の物を詰め込んだ箱がいくつかあったが、それらは、アデルが父親と共にアンドラストへ移住した時に、置いていった物だった。 彼の前には、ミタニが彼のズボンに突っ込んだ紙切れがあった。 それには、住所以外、何も書かれていなかった。 アデルは、ミタニが電話番号を書かなかったのを不思議に思った。

荷物を整理する気分ではなかったので、アデルは古い箱を開いて一つ一つ手早く中をひっくり回した。 箱のほとんどは、子供の頃のおもちゃでいっぱいだった。 いくつか取り出して、手に取ったりもした。 おもちゃの宇宙船が目に留まると、宇宙船のドアを開けて中のフィギュアを再配置したりして、しばらく遊んでいた。

宇宙船を箱に戻すと、別の箱を開けた。 中には、キャプテン・キーンのアクション・フィギュアが入っていた。 もう一度、その箱の中をくまなく探してみると、キャプテン・キーンのヘルメットと光線銃が見つかった。 子供の頃、何でも噛む癖があったのを思い出して、ヘルメットの側面の噛み跡を見て微笑んだ。 どうして、これらのおもちゃを持って行かなかったのか、覚えていなかった。 それに、お母さんが会いに来てくれた時、なぜ、一緒に持って来なかったのかも知らなかった。 彼は、キャプテン・キーンにヘルメットをかぶせてから、ベッドに置き、次の箱に取りかかった。

別の箱の中に、タブレットを見つけた。 十年も経った後でも、充電が残っているだろうかと思った。 電池の連続待機時間は3年となっていたはずだったが、ずっと電源オフの状態だった。 スイッチを押してみると、驚いた事に、ちゃんと起動した。 数秒で、メニュー画面が現れた。 メニューには、あまりたいしたものはなかった。 動画や写真といった基本的なボタンがあった。 操作画面が、かなりぎこちない動きで、見た目も古くさく、その事にビックリしながら、「写真」のボタンに触れた。

アデルは、写真が自分の年齢順に編成されていることを見て驚いた。 〇才から8才までの全年齢分そろっていた。 アッと、閃いた。 彼の両親は、学校行事の写真をたくさん撮っていた。 おそらく、ミタニについての手がかりになりそうな写真があるかもしれないと思った。 最後に作られたフォルダを、まず手始めに見てみようと、「8才」フォルダをタップした。

アデルは、画面上の写真を何枚もめくりながら、記憶を呼び起こす可能性がありそうな物を探した。 8才の誕生日パーティー。 動物園見学。 学校の体育祭の写真。 そして、クラスの生徒全員がポーズを取っている写真を見つけ、突然、手を止めた。 そこには、アデルの腕にしがみついて、カメラから目をそらせている赤毛の内気そうな少年が写っていた。 もしかしたら、誰かがこの生徒の名前を記入しているかもしれないと思い、「注釈」ボタンをタップした。 名前が記入されていた。 赤毛の男の子の名前は、「ホワイト」と表示された。

アデルは、やっと、思い出した。

そして、ミタニの住所が書かれた紙切れをつかみ、外に出た。

その住所の場所へは、歩いても、それほど遠くなかった。 アデルは建物の回転ドアを通ってから、もう一度、紙を見た。 「603号室」と、書かれていた。 エレベーターのドアはすでに開いていたので、彼は足を踏み入れ、6階のボタンを押した。 その部屋は、とても短い廊下の終わりにあったので、見つけるのは簡単だった。 そして、アデルは深呼吸し、ベルを鳴らした。

ドアの所に誰かがやって来るまで、まるで、永遠に時間がかかるように思えた。 アデルが、もう一度ベルを鳴らそうとした時、ようやくドアが開いた。 ミタニだった。

アデル: スノー・ホワイト?

すでにイライラだったミタニの顔が、すぐに、しかめっ面に変わった。 彼はアデルのシャツを掴んだ。

ミタニ: 中に入れ!

と言うと、掴んだシャツをぐいと引っぱり、アデルを部屋に引きずりこんだ。 ミタニは、無言でドアを閉めると、ドアの前から離れて行った。 アデルは、ほんの一瞬、どうすべきなのかと思ったが、こういった場面では、ミタニの後を付いて行くことになっているのだと、気づいた。 予想通りだったが、2人はミタニの寝室に行き着き、そして、すぐにそのドアも閉められた。

ミタニ: どうやら、やっと、思い出したみたいだな。

アデルの手にあるタブレットには、今もまだ、あのクラス写真が表示されていた。

アデル: この写真の子、君みたいに見えるけど、名前が「ホワイト」ってなってる。

ミタニはベッドの端に座って、ため息をついた。

ミタニ: 俺の両親が離婚する前の名前さ。 「ネージュ・ホワイト」。 みんなから、「スノー・ホワイト(白雪姫)」って呼ばれて、からかわれたり笑われたりしたよ。 でも、お前は、しなかったけどな。

アデル: その事は、覚えてる。

ミタニ: あの頃は、お前の注意を引こうと必死だったんだぜ。 俺に目を向けさせようと、考えつくあらゆる事をした。 でも、うまくいかなかった。 お前は、いつでも、自分だけの小さな世界に居たよ。

アデル: すまない。 当時は、あまり、どんな事にも関心がなかったんだ。

ミタニは、胸の前で腕を組むと、急に、顔をそむけた。

ミタニ: フン。 いいぜ。 謝ってくれて、さあどおぞ。 10年、遅すぎるけどな。

アデルは微笑んだ。 小学校時代の記憶が呼び戻って来て、ネージュについても、より多くの事を思い出していた。 ネージュは、実際、そんなに変わっていなかった。

アデル: そう言う自分は、どうなんだよ? 最初に、言ってくれたら、よかっただろ。 君の名字が変わった事、知る分けないだろ。

ミタニ: 俺の顔を見て、すぐ分かるべきだったろ。

アデルには、この議論には決着がつかない事が、分かっていた。 うまくいくかどうかは確かではなかったが、最後の切り札を使うしかなかった。

アデル: じゃ、もう行くよ。

アデルは、向きを変え、すぐにミタニの寝室から出て行こうと歩きだした。 予想どおり、ミタニの手が自分の肩を掴み、向きを戻した。

ミタニ: 何処に、行くんだよ?

ミタニはアデルの腰を両手で掴むと、ニヤリと意地悪げな顔をした。

ミタニ: 10年分の遅れを、取り戻そうぜ。


ショートストーリー第1巻。 終わり。
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本エピソードのイラスト委託作成:
Atomic Clover
Catnappe143

「都市」の画像は、「SimCity 4」の画面です。


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