内輪もめ



イラスト作成: Jenova87.

ニュー・ベレンガリア、ルーン・レイク地区、ルーン・レイク高校

今日のクラスは、すべて終了した。 生徒たちは互いに挨拶し、帰り支度をしたり、クラブ活動に向かう用意をしていた。 アデル、ミタニ、カオル、ジェイズ、そしてトーマは、校舎の外でテーブルを囲んで、今日の放課後の予定を話し合っていた。

カオル: へぇ〜、今日、お互いのご両親に会いに行くんだ?

ジェイズ: そうなんだよ。 最初に、トッカストラ大使館でトーマのお父さんに会うんだ。 それから、僕の家にトーマを連れて行って、両親と一緒に夕食をする予定。 父さんは、ビビるだろうけど。

ジェイズは、このイベントが待ち遠しくて仕方ないように、微笑んだ。 他の4人は、彼がそのイベントの第一部をどうやって切り抜けるのだろうかと、思った。

アデル: トッカストラ大使館って、何て言うか、、、ウサギだらけだよね。 大丈夫なのか?

ジェイズ: うーん、、、実は、大丈夫じゃないよ。 ただ頑張り抜くしか、ないよね。

カオル: 3週間経ってようやく、君たち2人が仲良くしてるのを見るのに、慣れてきたよ。

ジェイズ: 仲良くしないわけ、ないよ〜!

3週間前は、あんな事を言っていたジェイズが、今は、こんな事を言うなんて、彼らは、ジェイズが冗談を言っているつもりなのかさえも分からず困惑した。 しかし、問い詰めようとした時、何かが起こった。

* ドッカーン *

爆発音とガラスの飛び散る音が、辺り中に鳴り響いた。 そのすぐ後、ほこりっぽい灰色の煙が、別館の窓の一つから立ち昇るのが見えた。 ほぼ直後に、火災警報が鳴り、その甲高い大音響は、穏やで平和だった日常に貫くように響き渡った。

トーマは、他の者よりも、はるかに動揺していた。 彼はパニックの兆候を予想して周りを見回したが、別館から避難する生徒たちの平然とした人の流れが見られる以外、ほとんどの人は冷静にいつも通りの様子だった。

トーマ: あれは何だったの?

ミタニ: たぶん、また、アルテミスだろうな。 たいてい、少なくとも月に一度は、何かを吹き飛ばす。 実際には、奴と奴の彼女の2人組だがな。

トーマ: 彼のこと、一度も聞いたことないけど。 この学校の生徒なの?

アデル: ああ。 彼は、僕たちよりも一学年下なんだけど、ほとんどの時間を科学実験室で過ごしてるよ。

ジェイズ: 耳を澄すと、ほら、口論が聞こえるよ!

今では、誰もが静かになっていて、風に揺れる木々の葉音や離れたビルからの火災警報しか、聞こえなかった。 だが、しばらくすると、その火災警報と到着したばかりの消防車の音を上回る怒鳴り声が聞こえだした。 最初は、何を言っているのかは理解できなかったが、次第に口論の声が大きくなってきた。 2人は、髪からススを払い落としながら、彼らの居る方角に向かって歩いて来た。

アルテミス: なんで押したんだ!? ほんと、どうかしてんのか? 押すなって言ってるそばで、君は、あの一番大きくて点灯中のボタンを押したなんて!

ジョアンナ: 言いがかりはやめてよ! あれは、アクシデントだったの!

アルテミス: アクシデントって言うのは、何かにつまずいて転ぶことだぞ! 君は、意図的に、あのボタンを押したんだろ! それはともかく、君は、点灯する物に対して何か因縁でもあるのか? 君の欠陥のある脳を解剖して、どこがおかしいのかを調べる必要があるな!

2人が口論しながら歩いて行くのを、キャンパス中が見つめていた。 アルテミスはジョアンナから距離を取ろうと、歩調を早めてより前に出ようとしたが、まだ彼女は彼の後にぴったり付いていた。

アデル: 魅力的なカップルだね。

カオル: ほんとだ。今まで、2人の喧嘩を、実際に目にする機会、なかったよなぁ? あいつら、名物コンビだよな。

ジェイズ: だよね〜。だけど、ちょっと、、、あの2人、こっちに来ちゃうかも。

皆、振り返って2人に目を向けた。 アルテミスとジョアンナは、広場に居る者全員の注目を集めるほどの大声で怒鳴り合いながら、実際、近づいて来ていた。 彼らは内心、アルテミスが向きを変えて別の方角に行くのを期待したが、そうはならなかった。 アルテミスは、きびきびと、彼らのテーブルの所に来ると、席を取った。 ジョアンナは、しかめっ面をして、反抗的な態度で、彼の後ろに立っていた。

アルテミス: 君たちと同席してもいいかな?

ミタニ: もう、してるだろ。

ジョアンナ: 私はまだ、あんたに話し中なのよ、このまぬけ!

アルテミス: 私の「元」ガールフレンド、ジョアンナを、ご紹介します。

「元」を強調して言った。 ジョアンナは、全く気にしていないようだったが、皆は、きまり悪そうに彼女に手を振った。 ジョアンナは、気にするような素振りをみせるどころか、眼力でアルテミスの頭に穴を開けようとするかの如く、彼を凝視し続けた。

しかし、この時、アデル達の頭の中には、ある全く別の考えが浮かび上がってきていた。

トーマ以外の4人は、それぞれ自分の頭の中で、役者や台本、そして演出を、揃え始めていた。 彼らは、トッキ人と初対面した時のネコヒューマン人の、あの予期せぬ大舞台を、よく覚えていたので、今回は、何時、ビックリ劇場が始まるのだろうかと、とてつもない期待感を抱いていた。 まもなく幕が上がるであろう新作舞台を、ほんの一時さえも見逃さないようにと、瞬きすら我慢した。

アルテミス: 私の小型粒子加速器が台無しになったのは、こちらの驚嘆すべきバカな無能力者のおかげです。

後ろのジョアンナを、指で突っついた。

ジョアンナ: 変態!

アルテミス: それでさ、君たちが何やってるのかなぁって。

誰も、口を開かなかった。 トーマは無表情のままでいたが、他の4人は、大きな期待に胸に、アルテミスとトーマに、何度も、目を行き来させた。

アルテミス: 君たち、一体どうかしたのか? 話す能力を失ってるんだったら、人工声帯を取り付けてやるよ!

ミタニ: アルテミス、トーマに会った事、まだ、ないだろ? 彼は交換留学生だ。

アルテミス: こんにちは、トーマ。

アルテミスは、多少、困惑の顔つきをしたが、それ以外は何もなかった。

カオル: 彼は、ウサギだよ。

アルテミス: こんにちは、ウサギさん。

アルテミスは、彼ら全員を見回した。 彼は、この「ウサギ」の留学生という言葉の持つ意味を、まだ、理解していないようだった。

ジェイズ: 驚かないの?

アルテミス: もちろん、驚かないよ! なぜ、驚くんだい? それより、、、えっ、、、

その時、彼らは、アルテミスがようやく状況を把握しただろうと、確信した。 充分、意味を理解するのに、ちょっと時間がかかっただけだ。 そう、そうに、違いない。

だが、期待はずれだった。 アルテミスの表情がゆるみ、大きな笑顔になった。 皆の驚いたことに、アルテミスは突然、テーブルの上に這い上がると、するするとすべるようにトーマに近づき、トーマは、驚いて目を丸くした。 ジェイズはトーマの腕をしっかりとつかんで、「僕のものだよ!」と、精一杯、態度で表現した。

アルテミス: 分かったぞ! どうして、彼がすごいのか、が。

アルテミスは、トーマの耳をつかんで調べだした。 自分のすぐ鼻先で、トーマの両耳をつねったり擦ったりして、調査し始めた。 トーマは怒りもせず、ほとんど楽しんでいるかのようで、アルテミスが調べやすいように、頭を傾ける事さえした。

アルテミス: これだ! この、ほど良い厚さ。 耳の縁に沿って、リード線を走らせよう。 耳の軟骨は取り出そう。 そう、軟骨は取り除かないと。 必要ないよ。 良質の堅いリード線は、軟骨の代わりにもなる。

アルテミスは、テーブルの上で姿勢を変え、四つん這いから、あぐらをかく体勢になった。 トーマの右耳の先端を引き下げ、もう一度、つねったり擦ったりして調査活動を続けながら、アルテミスは、ますます熱中してきた。 彼の声は、ほとんど熱狂状態だった。

アルテミス: この自然な放物線状の形は、すばらしい受信機になるだろう。 必要なのは、受信信号を君が処理できるように、電子チップを脳に埋め込むことだけだ!

アルテミスは、トーマの両耳がまだトーマの頭に繋がっていることなど考慮せず、信号を受信させようとするかのように、彼の両耳を空に向けた。 それでも、トーマは、気にしていないようだった。

ミタニ: あいつ、口から、よだれ、垂れてるぞ。

アルテミスは、トーマの耳を放し、今もあぐらをかいたまま、テーブルの上に座っていた。

アルテミス: ミャーハッハッハッ! 君は、すばらしい亜空間通信機になる。

トーマは少し微笑んだ。

トーマ: 彼の事、気に入ったよ。

嫉妬心が爆発したジェイズは、トーマの腕から手を放し、今度はトーマの胸に腕を回した。

ジェイズ: 僕のボーイフレンドを、実験台には、させないよ!

アルテミス: 目くじらを立てないでくれ。 ほんの小さな手術だよ。

ジェイズは、歯をきしらせて、アルテミスを睨みつけた。

ジョアンナ: ちょっと、私の事、シカトするの、やめなさいよ! まだ、話は、終わってないわよ!

アルテミス: 君、まだ、いたの? そおだな、彼との話が一段落したら、君の股ぐらからミサイルを発射できるように改造でもしよう!

ジョアンナ: ほんとに、あんたは最低よ、もう、うんざり。

アルテミス: ミャーハッハッハッ! 君の性格には、股ぐらミサイルがピッタリだ!

ジョアンナは、テーブルの周りで足を踏み鳴らした。 誰もが、彼女は立ち去るかアルテミスの顔にパンチを食らわすかのどちらかだろうと思ったが、彼女は、そのかわりに、カオルの所までテーブルを廻ってやって来た。 ジョアンナはカオルのシャツの襟をつかむと、カオルを自分の顔のすぐ近くまで引き寄せた。

ジョアンナ: あなたは、ストレートよね?

カオル: えぇっと、、、そうだけど?

ジョアンナは、唇をカオルの唇に押しつけ、荒っぽくキスをした。 カオルはもがいたが、彼女は見た目よりも力があった。

ジョアンナ: 今から、私の新しいボーイフレンドよ! 分かった?

カオル: えぇぇ、、、いぃぃよ、、、

つづく。。。

本エピソードのイラスト委託作成:
Catnappe143
Miyuli
Atomic Clover
Kurama-chan

「都市」の画像は、「SimCity 4」の画面です。

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