ドラゴン参上

ドラコニス・コロニー、ドラコニス・ホテル

長時間の宇宙旅行の後に、最も必要となるのは、ちゃんとした本当のベッドだった。 生徒たちの大半は、まだ、宇宙時差ぼけだったが、多少は、気分が良くなった。 彼らのほとんどが、公園に向かう短い道のりを踏み出す前に、ホテルのロビーで顔を合わせた。

ドラコニス・コロニー、ドラコニス公園

少し傾斜がきついものの距離は短い坂を上ると、ドラコニスで唯一の公園に到着した。 生物学の先生が、いつものように威圧感のある様子で、彼らを待っていた。 言葉どうり、朝9時ちょうどに、先生は、陸軍訓練教官の如く、大声で怒鳴るように、指示を出し始めた。

生物学の先生: 全員、時間に遅れず、よくやった! よく注意して、聞いてくれよ! 今日、君たちは、森の中に入って、作業する。 作業内容は簡単だ。 目にする植物や動物を、スキャナーで、できるだけ多くスキャンして、データを集めてくれ。 スキャナーは、対象物のDNA構造を分析する。 もし君たちがスキャンした動植物のDNAが既存の有機物データベースに無い場合は、新種発見をしたことになる。 植物の場合は、道具箱の中に入っている手袋をしてからピンセットを使って、標本サンプルの収集を行ってもいい。 動物の場合は、スキャン結果を保存し、できたら対象物の画像も保存してくれ。 ただし、どんなことがあっても、動物や昆虫を捕獲してはならない! 標本データを収集した後は、分析のためにここに持って来てくれ。 通信デバイスが、道案内もする。 ここまでで、何か質問はあるか?

生物学の先生は、いつも、この同じ決まり文句を言うが、手を上げ、あえて質問を表明する生徒は、ほとんどいない。

生物学の先生: よろしい。 さて、次は、基本的なきまりだ。 通信デバイスは、道具箱に入っている。 もし何か問題が起こった時は、ここの本部に待機している我々に連絡してくれ。 迎えのシャトルを、すぐに派遣する。 そのデバイスは、非居住区域との境界線に近づいている場合、警告も発するからな。 絶対に境界線を超えないように! 訓練を受けた生物学者や管理スタッフのみが、境界線の向こう側に行く事を許可されている! どんな危険が潜んでいるか分からない。 誰も、医療シャトルで家に帰るような事態に、なるなよ! 質問が無いなら、道具箱とスキャナーを持って、スタートしてくれ! もう、自分たちでグループ分けが出来てると思うが、必ず、3〜6名のグループで行動するように。

先生は、急に体の向きを変え、椅子に座った。 それを「指示終了」の合図としてとらえ、生徒たちは、一斉に、スキャナーを取りに走った。

ドラコニス・コロニー、森

アデル、ミタニ、ジェイズ、トーマ、カオル、そして、マフィの6人は、グループになって、森を目指した。 森は深くなく、日光は、充分すぎるほどに、青々とした背高い草の茂る地面まで、届いていた。

彼らは、デバイスを頻繁にチェックして本部からの距離を確認しながら、2時間、あてもなくぶらついた。 これまでのところ、彼らのスキャナーが反応を示したのは、草木ぐらいで、興味を引くようなものは全く無かった。

彼らのグループは、さらに分割し、アデル、ジェイズとトーマが前列、カオルとマフィが中央、そして、しんがりを務めているのは、ミタニだった。

アデル: ネージュは、また、タバコ吸ってるな。

ジェイズ: こんな長い期間、内緒にできてたって、ビックリしたよ。

アデル: 口臭消臭剤。 体臭中和剤。 なんでもやってたね。 気づいてたんだったら、教えてくれれば、よかったのに。

ジェイズ: 僕も、今、初めて知って、驚いてる所だよー。

トーマ: タバコを吸うのって、何か目的があるの?

ジェイズ: 喫煙の目的なんて、ぜ〜んぜん、思いつかないねー。 でも、とにかく、手を出さないに超した事ないよ。 すっごく悪臭だし、気持ち悪いしね。 僕の兄さんは、ヘビースモーカーだけど、いつも、火事場から逃げ出して来たみたいに臭ってるよ。

ミタニが、突然、後方から早足で、彼らに追いついてきたが、もはや、タバコは手にしていなかった。 ジェイズが、ちらりと後ろのカオルとマフィを見ると、2人は、何か彼が知らない事について話合っていた。 ジェイズは、それがどうゆう物なのか、知りたくもなかったが。 マフィが言う事は、何であれ、ジェイズに頭痛をもたらした。

ミタニ: ちょっと、わざと遅れて歩いたけど。 それで、満足か?

アデル: そうでもない。 今も、まだ、臭い。

ミタニ: すみません、芳香の全能神さま。 気づかなかった、、、、

ミタニが、言い終わる前に、金切り声のような高い音が、その場の空気を切り裂いた。

声: イィィーョョーウゥー!!

ミタニは、飛び跳ねた。 彼が踏んだのが何であったにせよ、それが、瞬時に動いた。

ミタニ: 一体、何だったんだ?

アデル達4人は、その場に立ちすくみ、一方、カオルとマフィは、何事が起きたのだろうと、全速力で近寄って来た。 そして、彼らの目の前には、広げた翼をパタパタとはためかせながら、一見、白い大きな猫のような外見の生物が、ふわふわと浮かんでいた。 だが、もちろん、明らかに、猫ではなかった。 翼だけではなく、その生物は、頭の頂辺から三角形の太い尻尾の先にかけて、モヒカン状の暗い赤色の毛を持っていた。

その生物は、地面に降り、前足を口にあてた。 その時、その生物が喘ぎ息を出したと、彼らは思った。 それから、その生物は、小さな円を描くように、踊り跳ね始めた。 皆は、止めていた息を、ため息と共に、肺から吐き出した。 この生物がなんであれ、特に危険性は無いように見られた、が、一応念のため、用心はしていた。

アデル: こいつは、データベースに、絶対、載ってないと思うな。

ジェイズが自分のスキャナーのキーパッドを操作した。

ジェイズ: 載ってないねー。

ミタニ: で、どうするんだよ。 教科書に、どうすべきかなんて書いてあるわけないしな。

カオル: とりあえず、画像をゲットしようっと。。。

だが、カオルがそうしようとした時、その生物は突然、宙に飛び上がり、そして、地面に向けて急降下し始めた。 彼らは、その生物が地面に激突するにちがいないと確信したが、実際には、地面の穴の中に消えた。 ジェイズが、その穴におずおずと近づき、中を見ようと身を乗り出した。

すると突然、生物が穴から飛び出し、ジェイズは後方に飛び跳ねた。 前足には、巻いてある大きな厚紙とサインペンを、持っていた。 その生物は、サインペンのキャップを外すと、厚紙に何かを書き始め、皆は、困惑と沈黙の中で、それを見ていた。

アデル: 何か、書いてる。

その生物は、すぐに書き終え、皆に見えるように、厚紙を持ち上げた。

ジェイズ: 「あなたの言葉を、もらっていい?」って書いてあるね。

何と答えていいか分からず、皆は、互いの顔を見た。 アデルは、生物の方を向き、自分の口を指差した。 生物は、興奮したようすで、頷いた。

ジェイズ: あの生物、今、うなずいたよねー。 「はい」の意味だって、分かってやってるみたいだよね、たぶん。 僕も、やってみよーとっ。

ジェイズは、一歩、前に踏み出して、生物の手にした厚紙を指差しながら、頷いた。 その生物は、興奮して辺りを飛び跳ねてから、元気いっぱいに、ジェイズの方にやって来た。 ジェイズは、心臓が飛び出てきそうな気がしたが、体の方は、硬直して動かなかった。 生物が、力強く羽ばたきをすると、ジェイズの目の高さにまで、上昇した。 そして、ゆっくりと、前足を伸ばして、ジェイズの頭に触れた。 ジェイズは、何をされるのかと、たじろいだ。 ほんの一瞬、少し暖かさを感じた後、すぐに元に戻った。

生物は、地面に降りると、彼らに向かって、金切り声で、言葉を話し始めた。

生物: どうも、ありがとう!

皆は、ショックで息を呑んだ。

アデル: 話しが、できるんだ!

生物: できるようになりました、ありがとう。

ジェイズ: それって、僕の頭に触ったから、、、

ジェイズが言葉を終える前に、その生物は座って、興奮状態で声を上げた。

生物: ねえ!ねえ! あなたたちは、男子人類、それとも、女子人類? あっ、待って! 言わないで! 調べる方法、知ってます。

その生物は、突如、ミタニを急襲し、彼の腰にまとわりついた。

ミタニ: なんだってんだよ、早く俺から離れろよ!

生物は、その言葉に耳を貸さず、ミタニのズボンを引っ張り開けると、その中に潜り込んだ。 皆は後ずさりし、その生物が、翼と尻尾を興奮して激しく振り回しながら、ミタニのズボンの中で解答を探り出そうとしているのを、見ていた。 ミタニは、その尻尾を掴んで引っ張ったが、引き離す事ができなかった。

ミタニ: くっそっ、こいつ、力が強い! 誰か、助けろよ!

ミタニは、その尻尾を引っ張り続けていたが、誰も助けに行かなかった。 すると、突然、動きが止まり、生物はミタニのズボンから頭を出して、ミタニを見上げた。

生物: あなたは男子です! でも、もっと大きいのかと思ってました。

ミタニ: 俺のズボンから出ろ!

生物: はい、はい、分かりました。 ふぅーっ。。。

生物は、強く羽ばたいて上昇し、彼ら全員に顔を向けた。

生物: あなたたちに会えて、興奮している!

皆は、目の前で浮遊しているその生物に警戒しながら、無意識ながらに、自分のベルトに手をやり、しっかり閉まってるか確認した。

ジェイズ: 僕は、ジェイズ、こっちは、トーマ。 でも、僕たちは、人類種じゃないけどね。 僕は、人類とネコミ人のハーフで、トーマはトッキ人だよ。 君の名前は何?

生物: 私は、ドラゴン人で、私の名前は、、、

生物は、ゴロゴロとのどを鳴らすような音と、うなり声の中間のような、非常に奇妙な音を発した。 それは、誰も真似して発音することができない音だった。

生物: あなたたちが私の名前を言うことができないのは、分かっています。 わたしに、新しい名前をつけてくれませんか?

生物は、この自分のアイデアに、興奮していた。 ジェイズたちは、慎重に考えた。

ジェイズ: 名前ねぇ〜?

ミタニ: カオル、お前、あいつに日本風の名前を付けたらどうだ。

カオル: 日本語、全然知らないんだけど。 僕は、祖々々父の名にちなんで、名付けられただけなんだ。 もし、僕の名前から、そう思いついたんだったらさ。

アデル: リュウは、どうかな? ドラゴンって言う意味だって、どこかで読んだ気がする。

ジェイズ: それっ、いいと思うよーっ、僕は。

ジェイズは、体の向きを変え、生物に面と向かって、話しかけた。

ジェイズ: どう思う? 「リュウ」って名前、よさそうかな?

もし、翼があって話すことができる子猫がいたら、この反応を想像するのは容易だった。 生物は、まるで、おやつをもらった時の子猫のように、興奮して飛び跳ねた。

リュウ: バッチリです!

アデル: 僕はアデル。 君がズボンの中に潜り込んだ男は、ミタニ。

ミタニが顔をしかめていると、カオルが一歩、前に出た。

カオル: 僕はカオルで、この子はマフィです。

マフィ: ワタシ、宇宙飛行士だぁ〜っ!

リュウの名前の件が一段落した所で、様々な疑問が皆の頭をよぎった。

アデル: ところで、君は、どうやって書くことを学んだの?

リュウ: あなたたちに、見せます!

再び、リュウは宙に飛び上がると、前と同じ穴の中に姿を消した。 穴から出てくると、今回は、何冊もの雑誌を抱えていた。

リュウ: あなたたちは、興味深いものを捨てます! 読むことを、これで学びました。 難しくはありませんでしたが、話すことを学ぶのは、できませんでした。

リュウは、雑誌を一冊、アデルに手渡した。 アデルは、表紙を読んだ。

アデル: 「**パイ & クリ***」って、エロ雑誌。

カオル: 見せてよ!

カオルは、すばやくその雑誌を取ると、見始めた。

ジェイズ: それで、君は、雑誌からだけで、言葉を学んだの?

リュウ: そうです! 雑誌からは、性別についても学びました。 わたしたちドラゴン人には、性別というものがありません。

アデル: っていうことは、君は、男(He)でも女(She)でも、ないんだ?

リュウ: そうです。 でも、わたしの事を、"He"と呼んでくれて、いいです。 その方が、わたしにとって、いいです。

リュウがジェイズの頭を触った途端に、話すことができるようになった仕組みを、ジェイズは、今一度、理解しておきたいと思った。

ジェイズ: それでー、僕の頭に触った後、君は突然、話すことができるようになったよね。 何が起きたのかな?

リュウ: あなたの話し言葉をもらう必要がありました。 あなたたちは、その方法では、できないのですか?

アデル: 全然、違う方法だよ。 耳で聞いて、勉強して、学ぶんだ。

リュウ: それで、勉強しているイメージが、あなたの心にあったんですね。

会話が続いていくにつれ、ジェイズは、より不安がつのってきた。

ジェイズ: 君、僕の心の中に入ったの? 君、その、僕の、その、、、

リュウ: あっ、心配しないで! わたしは、あなたに、言葉をくれるようにお願いして、それで、わたしがもらったのは、言葉だけです! 許可なしに、あなたの心の中を、あちこち掘り起こすのは、とても失礼なことですので!

ジェイズ: それを聞いて、ホッとしたよ〜。

アデル: とにもかくにも、君は、ここで何をしてるの? もし、ここに知的生命体が存在してるって分かってたら、学校が、僕たちをここに送り込んだりしないはずだけど。

リュウ: 正確には、わたしは、ここに住んでいるわけでは、ありません。 わたしたちドラゴン人は、シールドで保護された地下に住んでいます。 あなたたちの技術が、わたしたちを感知しないのは、不思議ではありません。 わたしは退屈していたので、地上で何が起こっているんだろうかって思い、穴を掘って、よく出歩いて来ていたんです。 そして、あなたたちについて色んな事を学ぼうと思い、ゴミ箱の中から、いろいろと取り始めたんです!

アデル: 退屈してるんだったら、僕たちの居住地域に来てもいいよ。 生物学の先生は、君に会ったら、きっと、すごく興奮するだろうし。

リュウ: 本当?

アデル: ああ。 いいと思うよ。

リュウ: わぁーい!

ジェイズがアデルを近くに引き寄せ、リュウに聞こえないように、そっと話した。

ジェイズ: ちょ〜っと、ヤバいんじゃないの〜?

アデル: マジで言ってないよね? 感情を持つ生き物を発見したなんて、どれだけ高い評価を得られると思う? あの先生のクラスで、「A」を取る最初の生徒に、僕たちがなれるんだよ。

ジェイズ: それもそうだねーっ! 彼も、出かけられて、楽しそうだしね。

アデルは、リュウの方を向き、話しかけた。

アデル: リュウ。行く前に、何か必要な物、取りに行く?

リュウ: 大丈夫です! 先導して下さい!

ジェイズは、自分の通信デバイスの地図を見た。

ジェイズ: あっちの方向だねー。 さあ、行こう。

今もまだ雑誌を見ているカオルと、リュウに近づきたくないミタニの2人を除き、グループは、一緒になって、出発した。 グループが、数メートル先に行ってしまった頃、ミタニがカオルの肩を叩いた。

ミタニ: 雑誌を置いとけ。 みんな、もう、行ったぞ!

カオル: いてっ!

カオルは、雑誌を自分の道具箱に隠し込んで、皆の方に急いだ。 ミタニは、ゆったりとしたペースで後方を歩いた。 不思議なことに、歩いている間、ミタニは、トーマがこっそりと目を向けてくる事に気づいた。 何か理由があって、トーマは、ミタニを待っているかのように見えた。 しばらくして、ミタニはその事を気にするのは時間の無駄だと思い、ポケットからタバコの箱とライターを取り出した。 そして、タバコを一本取り出して、火をつけた。 二服目を吸った時、また、トーマがちらっと見てきて、ミタニが自分に追いつくように、突然、歩くペースを遅くした。 ジェイズは、リュウと会話するので忙しく、トーマが近くにいない事に気づいていなかった。

ついに、ミタニはトーマに追いついた。 ミタニは、トーマが何を言い出すのかと、興味があった。

トーマ: 一本、もらえる?

ミタニは、滅多にしたことのない驚きの表情で、片眉を上げた。

ミタニ: タバコ、ほしいのか?

トーマ: そうだ。

ミタニ: 今までに、吸ったこと、ある?

トーマ: ない。

ミタニは、もう一本、タバコを取り出した。

ミタニ: まず、どうするのか、見せないとな。 お前の分のタバコに火をつけるから、俺のを持っててくれ。

つづく。。。

本エピソードのイラスト委託作成:
Miyumon
Catnappe143
Kurama-chan
Atomic-Clover

「都市」の画像は、「SimCity 4」の画面です。

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