ドラコニス(注1)

宇宙、ドラコニス・コロニー近傍。

ドラコニス・コロニー行きの窮屈なシャトル内で2日間を過ごし、皆、神経が擦り切れてきていた。 二段ベッドと流し台以外は何もない小さな部屋に、6名づつ詰め込まれていた。 トイレ待ちの行列は、悲惨な状況だった。 シャトルが、もうすぐ目的地に到着するのを残念がる者は、いなかった。

ドラコニス・コロニー

シャトルが着陸すると、清々しい晴れた日だった。 エンジンの唸り声が徐々に静まっていくと、タラップが地面に降ろされ、へとへとに疲れきった生徒たちは、コチコチになった体でよろつきながら、日の光に目を細めた。

ジェイズ: 2日間も、あんなの中で、うんざりだった〜! 少なくともシャワーくらいは、付けといてくれないとね〜。 僕の尻尾、脂ぎって、ベットベトだよ〜。

ミタニ: また、帰りも2日かかるって、ほーんと、最高だぜ。

アデル: もし、君が、客室乗務員にあんな悪い態度で接してなかったら、ずっとましになってたさ!

ミタニ: その事を、何度も、持ち出すな。 お前だって、見てただろ。 俺は、ターキーのサンドイッチを頼んだのに、ハムを持ってきやがった!

アデルは顔をそむけ、周りの誰にも理解できない言語で、何かをつぶやいた。

アデル: Olet perse.

聞こえよがしの言葉に、ミタニは振り向き、アデルに向かって声を荒げた。

ミタニ: 何だよ、今の?

アデル: 別にーっ、何でもないよ。

カオルが、何回も鼻をすすってから、指で鼻をこすった。

カオル: カルパティ・シティって、湿度が高かったのかなぁ、それとも、シャトルの空気が乾燥しすぎてたのかな? 鼻くそが、固くなってバリバリになっちゃったよ。

パイロット以外で、シャトルを最後に降りて来たのは、生物学の先生だった。 先生は、既に下船済の生徒たちの群衆に向かって、注意を引くため、大声を上げた。

生物学の先生: よく聞けよ! 君たちの荷物は、ホテルに運ばれるから、心配しなくていい。 これから、道路の向こうに停まってるバスに乗って、山の上にあるダイナーで食事だ。 その後は、自由時間だ。 分かってると思うが、居住区域から離れすぎるなよ。 冒険しすぎて、非居住区域に接近すると、警告センサーが起動するからな。 もし、誰かが、非居住区域で保護された場合は、君たち全員、旅行の期間中ずっと、ホテルに缶詰だ! 今夜は、充分に睡眠をとってくれよ。 明日は、朝9時ちょうどに、ドラコニス公園に集合だぞ!

ドラコニス・コロニー、ダイナーにて。

彼らは、ダイナーに向けバスで山を上って行く途中、見るものすべてに驚いた。 そのコロニーは、ほんの数年前に開発されたにすぎないのに、道路や家屋は、いくぶん小ぶりではあるものの、まるで、自分たちの家の近所のようだった。

生徒たちの一団は、予約済みだったダイナーの全体を埋め尽くした。 それぞれ6名づつ割り当てられたテーブルに、ペアになって座った:トーマとジェイズ、アデルとミタニ、そして、カオルと新彼女のマフィ。 彼らは、伝統的なスタイルで完璧に再現されたレトロなアメリカン・ダイナーが、こんな小さなコロニーにある事に、驚嘆していた。 随所に施されたクロム・メタル装飾、アール・デコ様式のカウンターとテーブル、それに、ジュークボックスまでもあった。

トーマ: 今回のシャトル旅行は、僕自身は大丈夫だろうって思ってた。 トッカストリアの宇宙船は、たいてい、あんな感じで窮屈だから、慣れているから。

カオル: 確かに窮屈だったけど、僕にとっては生まれて初めての宇宙旅行だったから、まだちょっと興奮してる! マフィも、今回が初めての宇宙旅行だったんだよね?

マフィ: もぉ、宇宙飛行士だぁ〜っ!

ミタニ: それ言うの、止めてくれるかな? 君、もう50回は、言ったぞ!

アデルは、ミタニに冷たい視線を送った。

アデル:ネージュ! いい加減にしろ。

ミタニが言い返そうとする前に、ジェイズが、急に言葉を挟んで、会話の流れを元に戻した。

ジェイズ: トーマが言うにはー、トッカストリア自体が、すごく窮屈なんだって。 だから、宇宙船も窮屈なのは、まあ、もっともな話だよねー。

トーマ: あのシャトルほどは、悪くはないよ、トッカストリアは。 大きな公園がたくさんあるから、ほんと、いい所もあるよ。

アデル: 本で読んだんだけど、男性の数が、女性を上回ってるのって、本当?

トーマ: 僕が知る限りでは、男が81%で、女が19%。 人口は、約90億人。 繁殖は厳格に規制されている。 女性は、一度に8人から12人を出産するし、しかも年に4回も出産可能なので、規制しないと、すぐに危機的な状況になる。

アデル: 凄まじいね、、、

カオル: 僕たちの部屋を、シャトルの後方に割り当ててくれて、すごくよかったーっ。 船内で一番いい位置だよね!

ミタニ: 冗談だろ? 一番うるさい場所だぞ!

カオル: 超最高だったよ! エクイリブリア・グリフォン社製V1710エンジンだよ! 僕は、あの美しい音色に耳を傾けてたら、永遠に眠っていられる! 帰りの便で、もう一回、機関室の見学ツアーに参加できたらいいんだけどなー!

ジェイズは、笑った。

ジェイズ: ふぅ〜ぅ。 オタクの情熱に栄光あれーっ、だね〜。

ちょうどその時、注文を取る用意ができたウェイトレスが、タブレットを手に、彼らのテーブルに近寄って来た。

ウェイトレス: さあ、何にするの、君たち?

アデル: ホットドッグ、フライドポテトと、コーラ。

トーマ: 僕は、生ポテトとキャベツ、それに、オレンジジュースを。

ジェイズ: 僕にはー、ステーキ、レアでっ。それと、ハッシュポテトとルートビールも。

カオル: チーズバーガー、レタスとタマネギも挟んでくれますか? それと、コーヒー。 クリームと砂糖入りで、お願いします。

マフィ: まだ生まれてないのー、食べた〜い!

皆は、顔に恐怖を浮かべ、マフィからできるだけ離れようと身を逸らした。 ウェイトレスは、方眉をつり上げた。

カオル: この子には、目玉焼きと、レモンティーをください。

ミタニ: レバーとタマネギ。 それと、コーヒー、ブラックで。

アデル: ゲーッ! 君には、お休みのキスは、なしだね!

彼らが言い終えるとすぐに、ウェイトレスは、向きを変え、キッチンに向かって叫んだ。

ウェイトレス: ヘンリー、オーダーいくわよ! 赤塗りワンワン、カエル枝と、南部噴出、それから、ジャガに花輪と絞り、次が、厚切り生モーモー、キッチン掃除と、55、それから、蝋焼きは庭抜け薔薇刺しで、それと、砂付き金髪も、次が、落下2個と、捻ったシミ、で最後が、消灯と、暗闇で泣きべそお絵かき!(注2)

皆が一斉にビックリしてウェイトレスを見ていると、彼女は、次のテーブルに向かって歩いていった。

カオル: ちょっと食欲がなくなったかも。

ジェイズ: ここまでの所は、まあまあよかったんじゃないかな〜。 本物っぽくやってなかったら、このダイナー、意味ないよねー。

つづく。。。

本エピソードのイラスト委託作成:
Miyumon
Catnappe143
Kurama-chan
Atomic-Clover

「都市」の画像は、「SimCity 4」の画面です。
「シャトル」画像(「SimCity 4」より)加工: Jporter

注1:ドラコニス(Draconis)という単語は、星座の一つ、Draco(りゅう座、竜座)の形容詞形ですが、作者本人によると、その意図はなく、ドラゴンっぽい名前なので、ドラコニスにしただけのようです。 その為、日本語もりゅう座ではなく、ドラコニスとしています。

注2:昔からの個人経営のダイナーでは、サーバーがオーダーを入れる際に、ダイナー言葉(Diner Lingo)が使われています。 ダイナーの多くが、それぞれ独自の「言葉」「表現」を使っているそうです。(飲食店隠語とは、別のものです。) チェーン店など、現代的なPOSオーダーシステムを導入している店では、使われていませんが、伝統的に、ダイナー言葉を引き継いでいくダイナーもあります。

本エピソードの中で、ウェイトレスが使うダイナー言葉は、作者が勝手に考案した物で、深い意味はないらしいです。 ちなみに、「赤塗りワンワン」の「赤」はケチャップで、「ワンワン」は、もちろん犬のことです。

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