ショック返し


ニュー・ベレンガリア、ルーン・レイク地区、ルーン・レイク高校

昼日中であるにもかかわらず、なぜか、生徒が数名、あても無さげに校庭をうろついている。 おやつを食べている者もいれば、勉強している者もいる。 まだ授業時間中であるので、それは、異例の光景である。 そして、カオル、ジェイズ、トーマ、アデル、ミタニの5人は、一つのテーブルを囲んで、近くの屋台で買ったチップスを食べている。

アデル: マクファーデン先生は、大丈夫なのかな?

カオル: 早く元気になってほしいね。 歴史の授業は好きじゃないけど、あんな風に、教室から出て来ることになるなんて。

ジェイズ: 先生が、目の前で、急に体調を崩すところなんて、見たことなかったよー。

ミタニ: すぐに、よくなるって。 たぶん、ストレスか何かだろ。 とにかく、俺たちには関係ないことだ。 自由時間ができたのは、ラッキーだったぜ。

アデル: 残念だったな。 僕は、すごく楽しみにしてたのに。

ミタニ: 楽しみにしてたって??

アデル: そうだよ! 覚えてる? 今日の授業では、第三憲法制定会議とヴェリタス元首が辞任した時のお別れスピーチの所を、やるはずだったんだ。

アデルは、笑顔で、スピーチの一部を朗唱し始めた。

アデル: 縷々(るる)たる可能性を輝く光に見、星々を目指す夢多き者たちよ。 此処は、諸君の国である!

ミタニ: ハハーッ! お前、すっげぇーオタク!

アデルは、かなり気分を害し、ミタニの方を見て、しかめっ面をした。

アデル: 僕は、オタクじゃないよ! やりチンさ!

ミタニ: それもそうだが、大部分は、オタクだな!

アデル: やりチン!

ミタニ: オタク!

アデル: やりチンだってば!

トーマは、2人の言葉の応酬を見て、困惑していた。 2人のその言い争いは、とても奇妙なものに思えたが、口を挟むのを控えた。 こんな事で議論を始めるのも、ここでは普通の行動なのだろうかと、トーマは疑心暗鬼だった。 しかし、ジェイズが目をぐるりと大きく回したので、トーマの懐疑心は肯定された。

ジェイズ: 2人とも、バ〜カッ!

アデルは、笑いながら肩をすくめた。 ミタニは顔をそむけたので、彼が本当にイラついたのかどうかは、他の4人にはわからなかった。

カオルは、今も腕に付けているバンドに、ちらっと目を向けた。

カオル: まあ、これで、一時間は、平和と静寂を得られるかな。

ジェイズ: どうして、付けたままなのー、それ?

カオル: なんでか、ロックされててさ。 外し方、分からなくって。

その時突然、アルテミスの甲高い狂気に満ちた声が聞こえてきた。 見上げると、アルテミスが自分たちの方にやってくるのが目に入り、背筋がぞっとした。

アルテミス: どうして、こんなところに、いるのかね?

アデル: 先生の都合で。 君にも、同じこと、聞きたいんだけど。

アルテミス: 私かね? 今の時間は体育の授業があるので、私は、今回も、さぼっているところだ。 カオル、君は、早く逃げた方がいいぞ! ジョアンナも、たいてい、体育はさぼるからな! 私が君をここで見つけるって事は、同様にジョアンナも、君を見つけるぞ!

カオルは、どうなるわけでもないのに、反射的に腕のバンドをつかんだ。

カオル: ああ、何て事だよ〜、君がこれを発明したんだろ〜! どうにかしてくれよ〜!!

アルテミス: ミャーハッハッハッ! 君に、そう言われるとは、思わなかった! ちょっと、見せてくれるかな。

カオルがそれに応じると、アルテミスは、ポケットから変った道具を取り出し、作業にかかった。

アルテミス: 鬼才科学者たるルールその1:敵の手に渡った非常時に備え、自分の発明品には、必ず安全装置を装備しておく事! さてと、これで、大丈夫なはずだが。

と言い、アルテミスは離れた。 カオルは腕のバンドに目をやった。 アルテミスが取り外してくれるだろうと期待したのに、何も変化はなかった。

カオル: 何かしたの? 前と同じじゃないか。

アルテミス: 前よりも、もっと楽しくなってるはずだ。 しばらく待っていろ!

すると、タイミングよく、背後から、さらに甲高い別の声が聞こえて来た。

ジョアンナ: ちょっと! 確か、このお間抜けさんたちには寄り付くなって、言ったわよね!

ジョアンナはポケットの中から、手探りでリモコンを取り出した。 カオルは、来るべきショックに、気構えた。

“ブブーッ”*

ジョアンナ: きゃっ、ぎゃぁーっ、、、

“ドサッ”

地面に倒れたのは、今回は、ジョアンナの方だった。

アルテミス: ミャーハッハッハッ! 反撃機能を組み込んでおいたのだ。

皆は、地面に横たわる発煙体と化したジョアンナを、見ていた。 もう少しで、哀れみを感じる所だった。

カオル: アルテミス、これ、外してくれる?

アルテミス: もちろんだとも! 見せてくれ。

アルテミスは、カオルの腕をつかむと、今一度、作業しだした。 そして、ちょっとした間に、そのバンドの取り外しに成功した。 カオルは、ジョアンナが立ち上がるのに、手を貸した。

カオル: 2人きりで話ができる所に、行こうよ。

カオルは、周りには誰もいない別館の校舎の隅の方にジョアンナを連れて行った。 彼は、さっきまで腕に巻いていたバンドを差し出して、ジョアンナの掌に置いた。

カオル: 返すよ、これ。 君は、僕たちの周りには、もう、やって来ないのが、一番いいと思う。

ジョアンナは少し鼻をすすった。

ジョアンナ: どうしてなの? 私たち、一緒に楽しめるわよ!

カオル: いい事もあったよ、認めるよ。 でも、一日に6回も電撃ショックを受けるのは嫌なんだ。

ジョアンナ: 分かったわ、じゃあ、もうこのバンドを使うのは止めましょう!

カオル: 本心言うと、今、彼女とかって、要らないんだ。 友達とワイワイやってるのが、今は一番楽しいから。 それと、君は、アルテミスに焼きもちを焼かせるために僕と付き合ってたわけだけど、その成果は出てないよ。

ジョアンナは、さらに鼻をすすり、涙が、頬を流れ落ちた。

ジョアンナ: でも、、、でも、、、私には、彼氏が必要なのっ!

カオル: どうして?

ジョアンナ: だって、どうしても、ただ、ただ、、、ボーイフレンドが要るのよ!

カオル: その事、じっくりとよく考えてみるべきだと思うな。 僕は、もうお役御免だけどね。

ジョアンナ: でも、、、

カオル: さよなら、ジョアンナ。

カオルは、それ以上何も言わず、友人たちのテーブルに戻って行った。 ジョアンナは、どうしようかと思いながら、その場に立ち続けていた。

追記:ご参考までに、賭けに勝ったのは、アルテミスだよ。 :)

第3巻、終了です! 第4巻も、読んでね!

本エピソードのイラスト委託作成:
Miyumon
Catnappe143
Kurama-chan
Atomic-Clover

「都市」の画像は、「SimCity 4」の画面です。

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