ジャンプ・ネコ


トッカストリア、マオー・スペースポート

作者より:画像をクリックすると、フル・サイズ表示します。

個室キャビンの窓からは、たいして外を見ることはできないにもかかわらず、ジェイズは、トッカストリアをいち早く一目見ようと鼻を窓に押し付けていた。 だが、宇宙船はスペースポートに向け急速降下していたので、景色や町並みを垣間見る時間は、数秒足らずだった。 実際のところ、ほとんど見えなかった。

ジェイズは、降下中ずっと窓のある壁に体を貼付けるように立っていたので、宇宙船の重力がトッカストリアの基準に調整されたことに気づいていなかった。 重力の違いは大きなものではなかったが、気づくには十分なものだった。

ジェイズ: おぉっと! すごっーいっ! 離陸後に重力が軽くなった時よりも、ずっといい感じーっ!

トーマ: 変な感じがするのは、僕も同じだよ。 トッカストリアで、体をこれほど軽く感じるなんて、今までの記憶にない。 たぶんニュー・ベレンガリアに何ヶ月も住んで、筋肉がついたんだな。

ジェイズはトーマに駆け寄ると、トーマの胸をなでた。

ジェイズ: きっとそうだよ! トーマの筋肉、どれも大好きっだよ〜っ!

おそらく、軽い重力のせいか、それとも、トッカストリアの少し酸素の薄い空気のせいか、ジェイズは、妙にめまいがして頭がクラクラし始めてきた。

しばらくして、ファーストクラスの客室乗務員が、トーマの家に配送される手はずになっているジェイズとトーマの荷物を、取りにやって来た。 2人は下船すると、待機しているシャトル・バスに向かった。

バスに乗ると、到着手続きエリアまでは、たいして時間は、かからなかった。

到着手続きには、長い列ができていて、かなりの待ち時間を要した。 まず最初に、全乗客は、感染症を持っていない事を確認の為、ボディ・スキャナーを通過しなければならなかった。 次には、税関に行く事になっていた。 預け荷物の受取エリアに行く手前で、すでに、2時間以上、経過していた。 ジェイズとトーマの荷物はポーターによってトーマの家に運ばれていったので、2人がこの部分に煩わされずに済んだのは、少なくとも幸いだった。

これらの過程を経るにしたがって、ジェイズは、だんだんと気分が高揚してきて、検疫と税関を通り抜けながら、他人が自分をどう思うかなど気にしないようになっていた。 体が軽く自由で、まるで、夢の中で空を飛んでいるような感じだった。 自分を凝視している人も何人かはいたが、気にせず済んだ。 ジェイズは、ウサギ人たちに対して持っていた恐怖心を、完全に、克服していた。

到着ターミナルでは、公共施設で通常聞かれる冴えないBGMとは違う、意外にも驚くほどファンキーでスピード感のある音楽が流れていて、ジェイズは、メインロビーの扉に向かう間、ダンスしたい衝動を無理に押さえようとはしなかった。 トーマは無言のままだった。 トーマは、ジェイズが人々の注目を自分たち2人に引きつけているのを、特に好ましいとは思わなかったが、ジェイズが楽しんでいるようなのが嬉しかったので、少し笑顔を浮かべさえしていた。

トーマ: ずいぶん、エンジョイしてるみたいだ。

ジェイズ: 我慢できなくなっちゃってーっ! ナターリアに教えてもらったステップ、、、ここでは、どんなのでも、すっごく簡単にできるんだもん! すごく難しかったのも、ここでは全然、問題なし。 重力が小さいって、こんなに影響あるんだって、信じられないよーっ!

2人は大きな自動ドアに向かっていたが、ジェイズは、まだ踊り続けていた。 ドアに近づくと、ドアが開き、そしてその時、それは起こった。 まず最初に、ロビーから興奮した声が聞こえて来た。

あそこに、いるぞっ!

“カシャッ” “カシャ” “ピカッ” “パチリ” “カシャッ”

ジェイズは、片脚軸回転のダンス・ステップ途中で立ち止まったまま、レポーターとカメラの群衆らしきものを見ようと振り返ると、立ち入り禁止のロープが張られた向こう側で、群衆は、出来るだけ良い視界を得よう大騒ぎだった。

ジェイズ: ヒーッ!!!

トーマは、しかめっ面でレポーターの観衆を睨みつけた。

トーマ: あ〜あっ。 タブロイド紙が、僕たちの小旅行の事を、嗅ぎ付けたみたいだ。

トーマは、ジェイズがいるはずと思い、横を向いた。 しかし、そこには誰もいなかった。

トーマ: ジェイズ?

トーマは周りを見回したが、ジェイズは何処にもいなかった。 レポーターが上を向いて写真を撮っているのに気づくまで、何が起こったのか分からなかった。

トーマの数メートル上では、ジェイズが、2件の新発見をしていた。 まず第一に、重力が小さいと、前よりはるかに高くジャンプできる。 第二に、重力が小さい事で、よりしっかりと天井にしがみつき続けられる事が確証できる。 爪を天井板に食い込ませ、尻尾をだらりと、まるで執事を呼ぶベル紐のように垂れ下げながら、ジェイズは、急に、バカバカしい気分になってきた。

ちょうどその時、彼らは、少なくともトーマには聞き覚えのある声を、聞いた。

ヴェリタス大使: 君たち、そんな所にいたのかね。 時間に、間に合ったよな。 まあ、概ね。

ヴェリタス大使とその側近たちがやって来るのを、ジェイズは天井から眺めていた。

ジェイズは、畏敬の念さえも、抱いていた。 この見知らぬ惑星で、今、カルパティの前元首であり現・駐トッカストリアの大使を務める人物が、自分たちの方にやって来るのだ。 ヴェリタス大使本人と実際に対面する心構えは、前もって知り得た知識からだけでは、十分できていなかった。 大使が背が低い事は知っていたが、側近を従え近づいてくる姿は、ちょっと滑稽に思えた。 50に近い年齢にもかかわらず、14才くらいにしか見えない子供っぽい容姿が、強調されてしまっていた。

ジェイズ: あの人って、、、

ヴェリタスは、腕を大きく広げ、トーマを抱き締めた。

ヴェリタス大使: 久しぶりだな、トーマ。 随分と、大きく成長したな。

トーマはジェイズを見上げた。

トーマ: ジェイズ、早く降りて来てくれ。 こちらは、ヴェリタス大使、僕のゴッドファーザー(後見人)だ。

ジェイズは、できるだけ穏やかに降りようと、ゆっくりと、天井板を掴んでいた手を緩めた。

ジェイズ: 彼が誰かは、知っているよ。 トーマが彼を知っていることに、ビックリだけど。

ジェイズは、心配したよりも、より穏やかに、着地できた。 カメラのフラッシュとレポーターの騒ぎは続いていたが、ジェイズは、カルパティの前元首を目の前にして、緊張しすぎていたため、その事には気づかなかった。

トーマ: 彼と僕の父は、友人同士なんだ。

ヴェリタス大使: その通り! ジェイズ、会えて嬉しいぞ。

ヴェリタスは手を伸ばした。 ジェイズも手を伸ばし、ジェイズの耳は緊張から後ろに向かってねじれた。 ヴェリタスはジェイズの手を掴むと、元気一杯、握手した。

ジェイズ: お、、、お会いできて、、光栄です。

ヴェリタス大使: ついさっき、記者連中がお祭り騒ぎをしてると聞いたので、ここから連れ出すのがいいだろうと思って、やって来ることにしたのだ。 車を待機させてある。 こちらだ。 急いでくれたまえ。

ヴェリタスは、ドアから離れ、身振りで示した。 ジェイズは、ロビーで凶暴なマスコミ相手に苦戦しなくて済んで安心したが、特別出口に向かう間、ヴェリタスから隠れるようにトーマの後ろを歩いた。

トッカストリア、ヴァレフォー

スペースポートから外に出ると、既に、夕方になっていた。 ジェイズが上空からチラッと見た限りでは、ヴァレフォーは他の大都市とそれほど違っているようではなかった。 だが、暗くなりかけて来た今、その場に降り立って見てみると、その違いは、明白だった。 まるで、SF映画か何かみたいだった。 ヴェリタスの車にも、他のほとんどの車にも、タイヤがなく、地面から、約30センチ程、浮き上がっていた。 空中を浮遊する車に乗るのは、ゾッとしたが、乗り心地は、今まで経験したどんな事よりも、滑らかだった。

夜になって、ジェイズは、道路がコンクリートやアスファルトではない何か別の資材で作られていることに、気づいた。 路面には、車線境界線や規制・指示などの標示それ自体が、明るく点灯していた。 ビルは皆、全体が光で覆われ、輝いていた。

ジェイズ: ここは、カジノ地区か何かですか?

ヴェリタス大使: いや、ここのほとんど全域が、こんな感じだな。 ここは、ヴァレフォー首都特別地域で、たった今、我々は、トッカストリア上院議会の前を通過するところだ。

トーマ: 僕の家は、ここからすぐ近くです。

ヴェリタス大使: そうだが、君の家は、後回しだ。 まず、夕食に行こう。 カルパティ料理とトッカストリア料理の両方とも美味いレストランがあるので、そこだったら、報道陣も嗅ぎ付けられないだろう。 もちろん、私のおごりだ。

車は、鍵穴のように見える巨大な建造物の方に向かって、速度を上げた。

ジェイズ: あれは、何?

トーマ: 鍵穴記念碑だよ。 何世紀も前に建てられたんだけど、誰も、理由を知らない。 いつか、行ってみようか。

トッカストリア、ヴァレフォー、スカイパッド・グラダッド、トーマの家

ヴェリタスがトーマの家まで車で送ってくれた頃には、ジェイズのお腹は、十二分に満足していた。 トーマの家は、スカイパッドと呼ばれるタワー頂上部の円盤状居住区域にあった。 ジェイズは、先ほどのレストランのメニューの価格設定を理解していなかったが、自分が注文した料理の値段は、自分たちのスターライナーのチケットと同じくらいのようだった。 旅の疲れと、ついさっき食べた濃厚な味付けのステーキのおかげで、ベッドに行く準備はできていた。

翌朝。。。

ジェイズは、前日の興奮から疲れ果てて、遅くまで眠った。 慣れない環境のせいか、家の外の報道陣の喧噪を避けているせいか、それとも、昨夜少なくとも1時間はトーマと話をしてから帰って行ったヴェリタスの周りで、出来るだけ失礼のないよう畏(かしこ)まっていたせいか、とにかく、ジェイズは、予期せぬ事にこれ以上対処できる気分ではなかった。 トーマはすでに目を覚ましていて、ジェイズが見たこともない様々なフルーツを、たっぷりと皿に盛り、味わっていた。 ジェイズは目をこすりながら、何かが変だなと思いながら、部屋に入って行った。 空気に含まれる森林の匂いと高湿気は、どちらもジェイズにとっては慣れない奇妙な感じを憶えるものだったが、その事よりも大きな原因があるような気がした。 少し時間がかかったが、ジェイズは、報道陣が騒ぐ音がしていない事に、ようやく気づいた。

ジェイズ: 静かだねー。

トーマ: 今日は、報道陣、いないよ。 たぶん、飽きたんだろう。

ジェイズ: そうかな〜? 父さんがいつも言ってるけど、タブロイド新聞は、どこの惑星に行っても同じだ、って。

その時、タイミングを見計らったように、玄関の呼び鈴が鳴った。

ジェイズ: ほ〜らね〜?

トーマ: とにかく、見てくるよ。

トーマは、椅子から立ち上がり、ドアに向かった。 ドアの横にある、小型モニターのボタンをいくつか押すと、見覚えのある顔が映し出された。 タブロイド記者ではなかったので、安堵してドアを開けた。

コディエ勅使: 今日は。 再びお邪魔いたします事、お詫び致します。 女王陛下よりの通達をお届けに参りました。

トーマ: 通達ですか?

コディエ勅使: 左様でございます。 御両名様に宛てられております。 内容にはご満足いただけるかと存じます。

勅使が封筒を差し出すと、トーマは、落ち着いた物腰で、それを受け取った。

コディエ勅使: では、良い一日を。

トーマ: ありがとうございます。

トーマはドアを閉めた。

ジェイズ: 今回は、一体、何っ?

トーマ: 見当もつかないが。 彼は、僕たちにとって「満足」できる内容だって、言ったけど。

トーマは、封筒の折り返しを持ち上げ、中から羊皮紙の書類を取り出した。 ジェイズは、トーマがそれに目を通すのを、ワクワクしながら見守った。

ジェイズ: グッドニュース?

トーマ: 女王は、僕たちのトッカストリア滞在中、僕たち本人の同意なしの写真やビデオ撮影を控えるよう、すべての市民に指令を出したようだ。 また、全ての報道関係者は、僕たちから、少なくとも600テールの距離を保つべきとも、書かれている。

ジェイズの目が、驚きで、大きく開かれた。

ジェイズ: わぉ! 女王って、そんな事も、できるんだねー?

トーマ: 女王は、何でも自分のしたい事はできる、みたいな感じだよ。 トッカストリア王室の不分法(文章化されていない法)では、女王は、望むことはなんでも行えると、なっているが、実際に行う事は、滅多にない。 無茶に力を行使したら、議会や市民がその力を取り上げるだろうって、女王自身が十分に自覚している。 だから、微妙にバランスをとっているよ。

ジェイズ: だから、外が静かなんだーっ。

トーマ: それに、今夜、クラブに行くのに、何も支障ないようだ。

ジェイズ: そうだねーっ!  ミャーっわぉーっ、すごく楽しみになってきたよー! ところでだけど、「テール」って単位、どのくらいの長さなの?

トーマ: トッキ人の尻尾の平均値。

ジェイズ: 20センチくらいって事かな〜っ?

トーマ: えっ? いやに具体的な数字だな。

ジェイズ: へっへっへーっ。 前にトーマが眠ってる時、ちょっと、測ったんだーっ。

*計測中*

本エピソードのイラスト委託作成:
Miyumon
Jenova87
Ensoul
Enthriex

「都市」の画像は、「SimCity 4」の画面です。

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